B(ババーン)+V(ビクトリーム)=D(ダイナマイツ)!!
「たかしめ、だましやがったなー!」
ここは岐阜県のとあるメロン農園。
その青空に、一人の魔物の叫びが響き渡った。
VとVをくっつけた外観をしたその魔物・・・名前はビクトリーム。
千年前、この世界とは違う世界・・・いわゆる魔界から、王を決める戦いのためにやってきた。
しかし何故か彼は今、人間界、しかも日本の、岐阜県にいる。
それもこれも、たかしという日本人から得た情報を元に、大好物のメロン・・・しかもV字型のメロンを探しにやってきたのだ。
しかし、そんなものが栽培されていない事を知り、ビクトリームの怒りはまさに頂点に達しようとしていたのである。
「おのれ、こうなったら、このメロン農園のメロンを全てたいらげてやるわーっ!!」
「な、何をするんだお客さん!!」
親切にいろいろと教えてくれたメロン農園の主を蹴り飛ばし、ずかずかとメロン畑に突入するビクトリーム・・・その行動はまさに暴掠の限りである。
そんな彼の様子を物陰から伺う影があった。
カプセルのようなヘルメットをかぶり、マント・グローブ・ブーツと完璧なまでのヒーロースタイルをとっていたその影は、その容姿とは裏腹にがくがくとその足を震わせていた。
胸に「B」のマークが輝くそのヒーローの名はババーン。日夜貧乏と戦いながら子供たちを守る正義のヒーローである。
「も、もももももう大丈夫だからな・・・!」
足だけでなく声まで震わせながら、電柱に身を寄せて様子を伺うババーン。その声は、背後で同じく様子を見ている子供たちがいる。
「このヒーローババーンが、あの化け物からメロン畑を守ってやるから・・・な・・・?」
だが。
ふと、ババーンが振り返ると、先ほどまでいたはずの子供たちは影も形も見えない。
一陣の風が、ババーンの胸を駆け抜けていった。
ヒーローババーンは哀愁戦士である。
幾多の悲しみを乗り越えながらも、顔すら覚えていない両親から与えられた「子供を守ってやれ」の一言を忠実に守り、今も戦い続けているのだ。
「・・・お・・・」
が、子供たちが消えたこと、そして目の前で繰り広げられているメロン大収穫劇(正確には片っ端から食べているので捕食劇、といったところだろうか)に、気が触れてしまったのか、突然、ババーンはその場でダンスを始めた。
「おどれおどれぃっ!!怖くなんか・・・怖くなんか、ないぞー!!」
「ム!?」
が、その派手(?)なダンスが、逆にビクトリームの気を引いてしまったようだ。
「貴様ー!いったい何をやっているー!正直に答えろー!!」
「いいっっ!?」
ビシッ!
指を突きつけ、ババーンに呼びかけるビクトリーム。対するババーンはその大声の前にビクッ!と体を痙攣させ、中途半端な体制のまま、動けなくなってしまう。
その間に、ビクトリームはずかずかとメロン畑を横断し、ババーンの元に近寄ってくる。
「いいか貴様・・・いくらここが少々の無茶が許される田舎道だからと言ってだ!そんなに土埃をあげたらメロンがおいしくいただけないではないか!!」
一見まっとうな意見に聞こえなくもないが、言っていることは無茶苦茶である。
しかしその一言は、ババーンを正気に戻させた。
凍りついたように固まっていたババーンはゆっくりと、震える指をビクトリームに向けた。
「メロン・・・そうだ、メロンだ!! そのメロンはお前が蹴飛ばした農家の人が、世界中のメロン愛好家のために手間と愛情をたっぷり込めて作っている大事なメロンなのだ!それを勝手にむしゃぶりつくなど、このヒーローババーンがゆ・・・許さないぞ!!」
なかば、勢いに任せて言い放ったババーン。だが、そのことで精神的に吹っ切れたのか、指の震えはいつの間にかおさまっていた。
だが、反対にビクトリームの方が、その全身を震わせ・・・いや、怒りにわなないていた
「貴様・・・今、なんと言った?」
「・・・え?」
「この私から大好物のメロンを取り上げるつもりか、貴様ー!!」
「ヒィィィィィッッッッ!!」
先ほどおさまった震えはどこへやら。
再びがたがたと震え始めるババーンをにらみつけながら、ビクトリームはその両手を点に高々と掲げた。
「ベリー・シット!! こうなれば、貴様をロストして、メロン食い放題の旅に出る他はないわ! Vの体勢をとれ!! モヒカン・エース!!」
・・・。
「モヒカン・エースっ!!!」
ビクトリームの叫びに答えるものは、いない。
体を覆うマントで身を隠すように縮こまってしまったババーンと、Vの体勢で立ち尽くすビクトリームとの間に、乾いた風が吹きぬけた。
「ええい、そういえば今日はモヒカン・エースを連れてきていなかったわ! やはり夕張に行ったときのように首に鎖をつけてでも連行するべきであったか・・・だがしかぁし!たとえ術が使えなくても、貴様のような相手を倒す手段はいくらでもあるわーっ!!」
一人、自らの独壇場であるかのように語り続けるビクトリーム。それに対し、防御体勢(?)で待ち続けていたババーンは、いつまでたっても攻撃がこないので心配になったのか、ふと、顔を上げ、ビクトリームのほうを向いた。
その瞬間。
「分離せよ!我が美しき頭部!!」
輝く光が、一瞬、ビクトリームを包んだ。その光は頭部と胴体の2つのVの境界点に収束し、そして餅のように伸び始める。その両端には、頭部と胴体があった。
「あ・・・頭が・・・外れたーっ!?!」
理解不能の事態が発生したことで、ババーンは完全にパニック状態に陥っていた。何とかその場に立つことは出来ていたものの、手足は震え、まるで蛇ににらまれた蛙のようにその場から動けなくなっていた。
「ワーッハハハハハハ!!! 恐れおののけ!そしてその感情に身をゆだねながら倒れ伏すがよいー!!」
「う・・・ウワーッ!!」
ババーンが恐怖の叫びを上げたその時だった。
ひらめく白刃が、彼の体を通り抜けていったのは。
「落ち着けぇぇっ!!」
同時に、背後から聞こえる叫び声。
何故か、ババーンはその声に驚くことも、恐怖することもなかった。それどころか、心が落ち着いたような・・・そんな感触さえ受ける。
「えっ・・・?」
突然の事態に困惑しながらババーンが振り向くと、そこには赤い着物を着た少年が立っている。その手に握られているのは日本刀だ。
「あ、アンタは・・・?」
「俺は五輪玄米!仙医十二経剣の継承者だ!!」
「お・・・おお!! なんだかよくわからないけど助っ人か!じゃああいつをさっさと追っ払ってくれ!!その日本刀、さぞかしよく切れるんだろ!?」
「い・・・いや・・・」
すがるように少年・・・玄米を見上げるババーンだったが、玄米は目をそらしながら頬をかいた。
「仙医十二経剣は病魔を切りて人身を切らず、の剣なんだ。要するに・・・ああいう妖怪みたいなのを切るための剣じゃない、ってことで・・・」
玄米の顔から、だらだらと冷や汗が流れ落ちる。本音は、わけのわからないものと戦いたくない、というところなのだろうか?
ぽん、と玄米がババーンの肩を叩いた。
「そんなわけだから、がんばってくれ!」
「お、おいおい!」
「アンタもヒーローならあるんだろ、必殺技ぐらい!そいつをどかーん!とぶつければあんなやつちょちょいのちょいだぜ!!」
玄米の言葉に根拠はなかった。
ババーンが戦っているところは見たことがないし、それ以前に今日が初対面だ。
だが、必殺技のくだりについては結構本気だった。きらきらとした目が、ババーンの瞳に写る。
「・・・わ・・・わかった、やってみる!」
くるりと、ババーンがきびすを返した。
はるか上空で滞空するビクトリームをにらみつけ、一度は下ろしたその指を、再びビクトリームに突きつける。
「この私が相手になってやる、メロン泥棒!!」
「フッフッフ・・・ようやく立ち向かう気になったか。しかし!このビクトリーム様も容赦はしない!私の華麗なる技の前に沈んでいくがよい!!」
「ならば! くらえ、ババーン・フラッシュ!!」
説明しよう!
ババーン・フラッシュとは、ヒーローババーン唯一の必殺技である!
その力を頭部に集中させることでその頭頂部にある球体をピカピカと光らせる技なのだ!!
「こちらも応戦だ!!荘厳回転(グロリアス・レヴォリューション)!3・6・O(スリー・シックス・オー)!!加速・加速・アクセル・アクセル・アクセル!!!」
対するビクトリームも、その頭部をぐるぐると回転させ始めた。全周囲をカバーするがごとくぐるぐると回転する頭部の残像が球体に見えるほど、ビクトリームは激しく回転していた。
そして・・・20秒が経過した。
「き、貴様ー!その技は飛び道具じゃないのかーっ!!」
激しく怒りの雄たけびを上げたビクトリームが、頭部を回転させたままババーンに突っ込む。
・・・ババーンは吹っ飛んだ。
「ブルァァァァッ!!!」
(よ・・・よわっ!!)
その光景に、思わず玄米は心の中でつぶやいた。その足元に、ババーンが転がってくる。
「だ・・・駄目だった・・・」
「も、もっと技はないのかよ!!」
「何を言う! 私の必殺技はババーンフラッシュ、ただ一つだ!」
ババーンは胸を張った。だが、少なくとも威張って言うようなことではなく・・・。
(こりゃ、だめだ!)
と、玄米が思うのも無理はない。
「どうするんだよ! このままじゃ勝ち目はないぜ?」
「・・・それでも・・・」
ゆっくりと、ババーンは立ち上がった。その目には決意のまなざしが浮かんでいる。
「それでも、戦うよ。それが、ヒーローの役目だからね・・・」
その足はダメージと疲労、そして恐怖でがたがたと震えていた。それでも、無理やりに顔を上げ、いまだ空中で回転を続けているビクトリームをにらみつける。
「そう・・・私は子供たちとメロン畑を、守るんだ!」
「よく言った、ババーン!」
その背後から、新たな声がした。振り向くと、そこには背の高い、学生服姿の中学生がいる。
「今度は・・・誰?」
「俺は高嶺清麿。アンタがその気なら、勝てる作戦がある! それを教えに来たんだ」
清麿と名乗った少年はババーンにの歩み寄り、ぼそぼそと耳打ちする。その言葉に、ババーンの顔が青ざめていくのが、はっきりとわかった。
「い、いや! しかし、あれは・・・!!」
「だが今、あのビクトリームに対抗するにはそれしかないんだ!」
はたからその様子を見ていた玄米にもはっきりわかるほど狼狽するババーンと、なんとか説得しようとする清麿。
そして、上空で回転を続けていたビクトリームの動きが、ぴた、と止まった。
「ヌ!貴様は、南米で私をさんざん苦しめた少年! いったい何をしに来た!まさか、あの電撃のガキも一緒じゃああるまいなー!?」
「心配するなよビクトリーム・・・あんたの相手はあとで、ヒーローババーンがちゃんとする。さ、行こう」
「いや、でも、だけどなぁ・・・?!」
狼狽を続けるババーンを引きずるように歩き出す清麿。しかし、それをむざむざと見逃すほど、ビクトリームも甘くはない。
「待て貴様らー! 何をしようとしているかは知らんが、勝手な真似はブルァァアアア!!!」
が、そのビクトリームの言葉は途中で中断され、はるか上空から見下ろすように浮かんでいたその頭部が一気に墜落してしまう。
そして、ビクトリームは見た。自分の体が何者かの攻撃を受けていた事を。
その少年はゴーグルをつけていた。その顔の前で腕を十字に組み、そのまま突進して、ビクトリームの体に体当たりをかましたのだ。
「ま、また助っ人かぁっ!!」
「俺は空刃戸空守(からはど・クロス)!! ババーンが戻ってくるまでは、俺がこの場を守ってみせるぜ!」
地面に叩きつけられながら怒りをあらわにするビクトリームに、クロスがびっ!と指を突きつける。
「このメロン畑は守り抜く!これ以上、メロンを食い荒らさせはしないからな!!」
「ベリー・シット!生意気なー!!」
いつの間にか、ビクトリームは怒りの矛先を完全にクロスに向けてしまっていた。それゆえに、清麿とババーンが立ち去ったことにも、気づかずにいたのだった。
「ホントに、大丈夫なのか・・・?」
「ああ。こう見えても俺は、細かい作業が得意でね。完璧に整備しておいたから大丈夫だ!」
ババーンは、ぴかぴかに磨き上げられた一台のバイクを見下ろしていた。
そのバイクは、彼が毎日愛用しているバイクだ。エンジンのかかりが悪いのと燃費が悪すぎるのがネックだが、体になじんだ相棒でもある。
「このバイクのパワーなら、ビクトリームにも十分対抗できる。さぁ、早く!」
「わ、わかった・・・」
しぶしぶ。そんな口調でうなずいたババーンは、ゆっくりとバイクにまたがった。
エンジンをかける。何度か「スココン」と乾いた音を聞かせたが、数回のチャレンジの後、エンジンは唸り声をあげ始めた。
「こ、これは・・・」
「どうだ?勇気がわいてくるだろう?相棒と一緒なら」
「ああ・・・そうだな!」
そのエンジン音とともに、ババーンの表情が少しずつ変化し始めていた。低く唸りを上げるその音と、清麿の一言が、ババーンの背中を後押ししているかのようだった。
「よし・・・いくぞ、ババンバ・バイク!!」
「ナイト・クロォォォス!!」」
「ブルァァァアアア!!」
一方。
クロスとビクトリームは一進一退の攻防を繰り広げていた。
ビクトリームはまず、頭部と体を合体させて反撃に出ようとしたのだが、そのたびにクロスの必殺技である「ナイト・クロス」がそれを阻んだ。
だが、ふらふらと浮かび上がりながらも、その口調だけは衰える事を知らない。
「ベリー・シット! ちまちまと卑怯な手でこの華麗なるビクトリーム様にダメージを加えおって・・・こうなれば!!」
ぎゅん。
それまでと打って変わって、頭部の動きがすばやくなった。その為、クロスも一瞬、その動きを追い損ねてしまう。
華麗なるビクトリームの頭部が狙うは・・・まだ残っている未収穫のメロン。
「し、しまった!」
「ムグハグハグムグアガフゲフガハムグハァァツ!!」
ものすごい勢いでメロンにかぶりついたビクトリームは、その勢いのままにむしゃぶりつく。皮を剥ぎ、内部のジューシーな部分を食らい尽くす。その間、約10秒。
「ムハァァァッ!!」
瞬間、ビクトリームの頭部と体が、緑色のオーラに包まれた。その輝きに一瞬目を奪われてしまったクロスは、次の瞬間にビクトリームの頭部が体に向かって近づく隙をつくチャンスを失ってしまう。
「ガッシーン!!」
そしてついに、ビクトリームは合体を果たした。再び合間見えた事を喜ぶカップルのように、ビクトリームはその体をくるくると回転させ始める。
その大地に突き刺さってしまいそうなほどに細い足に渦巻状の模様がついていたら、彼は確実に地面に穴を掘り進んでいたことだろう。そのぐらいの勢いで高速スピン状態になったビクトリームは、まるでコマのように、クロスに体当たりし、弾き飛ばした。
「くっ!!」
「貴様、これまでよくこの体を痛めつけてくれたな・・・おかげで私の体はベリー・シットなダメージと鬱憤でいっぱいよ!」
ぴたりと、きれいに回転を止めたビクトリームは、倒れこんだクロスに歩み寄りながらつぶやくように言葉を続ける。
「だぁが・・・わが肉体と頭部が再びひとつになったからには!お前たちの目論見とやらもあっさりと瓦解する方面よ!」
ぶろぉぉん。
その時であった。空気を振るわせるエンジン音がメロン畑に聞こえてきたのは。
「待たせたな、ビクトリーム!」
「き・・・貴様はぁぁ!!」
「そう・・・ヒーローババーン、再び参上だ!!」
再び、メロン畑を見下ろせる小高い丘に姿を見せたババーンの顔は引き締まっていた。かぶっているヘルメットの星が輝いて見えるほどに。
「今度こそ、お前の野望もこれまでだ、ビクトリーム!」
「ベリー・シット!!そんなおんぼろバイクを手に入れただけだというのにその自信はなんだ!まさかそのバイクに何か秘密があるんじゃなかろうな!!」
「フッフッフ・・・」
ビクトリームに問いただされ、不敵に笑うババーンだったが、その3秒後、おもむろにくるりと振り返り、待機していた清麿に向かってささやくように聞く。
「・・・何か秘密の機械が付いてたの?」
「いや、ない」
対する清麿の回答はいかにもあっさりだった。
・・・ババーンの顔に縦線が入った。自信の回復と喪失の起伏がこれほどまでに激しいヒーローも珍しい。
ギギギ・・・と錆びたドアのように首をゆっくりと回転させたババーンの顔からは、大粒の涙が滝のように流れていた。
「ど・・・どうしよう・・・」
「おお・・・見つけたぞ、我が素晴らしき特技を発揮するスーパーアイテム!!」
先ほどまでの自信はすっかり空の彼方に消え去り、動けなくなってしまったババーンに対し、ビクトリームは発見した「何か」に向かって一目散に突撃していった。
ビクトリームの尖った足が、紅いズボンを履いた金髪の男に向かって繰り出される。
「ブルァアアァ!!」
「ギャァアアア!!」
その男の傍らには、バイクがあった。ビクトリームはその体からは想像も出来ないほどの軽い身のこなしでそのバイクにまたがり、アクセルをふかす。既にエンジンがかかっていたバイクは、ビクトリームの操作に従い、徐々にそのスピードを上げていった。
そのバイクを見て、ババーンよりも先に驚いたのは清麿だ。
「あ、あれはフォルゴレのバイク!!あいつ、何やってんだ!?」
「し、知り合いなのか?」
「ああ・・・俺はあのバイクでここまできたんだが・・・なんで奪われてるんだよ・・・」
清麿は小さくため息をついた。
だが、それでビクトリームの乗ったバイクが止まるわけもなく、その勢いはどんどん増していくばかりだ。
「フハハハハ!!我が必殺のVバイク操縦術によって、お前ら全員ロストしてやるわ!!」
「ど、どうするんだよ! あのスピードじゃもう、俺たちにはどうしようもないぜ!」
いつの間にか、クロスがババーンの元に駆け寄ってきていた。玄米も、清麿のそばに立っている。
「仕方ない・・・向こうがバイクで来てるなら、こっちもバイクで対抗するしかないだろう」
「え・・・?」
「ババーン。アンタが頼りだ。やってくれ!!」
「えーーっ!!?」
「元々そういう作戦だっただろ!そのバイクがあれば、やっつけられるかも知れないんだよ!」
「いや、しかしだな、あっちはもともとでたらめな上にバイクの力があるんだ!総量的にはこっちが負けてるじゃないか!!」
「・・・だけど、この村を守るのは、やっぱりババーンでなきゃいけないんだよ」
涙を流しながら突撃を拒むババーンに、うつむき加減で横やりを入れたのはクロスだった。
「俺は、自分の育った街を守るために、必死になって戦ってきた。最後まで戦い抜けたのは友達や、協力してくれたみんながいたからだけど、それよりもっと強かったのは、なくしたくなかった故郷のためだったんだと思う。だから、この村で子供たちと一番仲のいい・・・ババーンがやるべきなんだよ」
「そうだな」
続いて口を開いたのは玄米だ。刀の柄に軽く手のひらを当て、その感触を確かめながらゆっくりと語る。
「仙医十二経剣は医療の技だけど、使うのが日本刀であるが故に、患者に信じてもらえないと使えないんだ。だから俺は、他人に信じてもらえることの尊さを知ってるんだ。だからというわけじゃないけど、ババーン・・・アンタの勇気を信じてみたい。誰よりも真っ先にあの魔物に啖呵を切った、アンタのことを」
「クロス・・・玄米・・・」
再び涙を流しながら、二人の顔を見回すババーン。その肩を、ぽん、と清麿が叩いた。
「どうやら、やるしかなくなったみたいだな」
「ウヌ、がんばるのだ!」
清麿のそばにいた小さな子供の応援に答え、ババーンは改めて、ビクトリームに向き直った。その顔には決意の表情が浮かんでいる。
アクセルをふかし、エンジン音をとどろかせる。そしてそのまま、言葉もなくバイクを発進させたババーンは、そのまままっすぐに、ビクトリームの乗るバイクへと向かう。
「真っ向から立ち向かってきたか!面白い!我がバイク術、破れるものなら破って・・・みよ!」
その両足を後方に跳ね上げ、腕だけでバイクを操縦するビクトリーム。
そしてババーンは、ただ何も考えず、相棒であるババンバ・バイクの前輪をゆっくりと持ち上げた。
「ババーン・・・」
路上に転がる小石に後輪が引っかかり、ババーンは空へと舞い上がった。
「ダイナマイツ!!!」
そして・・・ババーンとビクトリームは壮絶に・・・衝突した。
***
数分が経過して・・・。
「ブルァアア!!!」
くず鉄と成り果てたバイク達の中から、V字型の頭部が顔を出した。2台のバイクが火を吹かなかったのは、まさに奇跡と言ってもよかった。
「やってくれるわ!まさか玉砕覚悟の特攻を仕掛けてくるとはな・・・だがしかし!ほんのわずかながら私の方が傷が浅かったようだな!! そう・・・最後には私が勝利した! 貴様達の行動は無駄だったのだ! アーッハッハッハ!!イーッヒッヒッヒィーッ!!」
「バオウ・・・ザケルガァアアアッ!!」
ごうっ。
高笑いをしていたビクトリームの視界が、一瞬にして金色に染まった。
光り輝く竜の顎が、ゆっくりと開かれていく。
「や・・・やっぱり・・・」
「バオオオォォォォオオオ!!!」
ビクトリームの視線は、ゆっくりと、金色の竜から、その竜を生み出した存在の方に向いていく。
「やっぱりいやがったのか、クソチビめーーっ!!!」
それが、ビクトリームの断末魔となった。
そのV字型の体の全てを飲み込むかのように食いついた金色の竜は、周辺に強力な電撃をまき散らし・・・奇跡的に発火しなかったバイクのガソリンに引火し、大爆発を起こしたのだった。
***
「こ、ここは・・・」
「ようやく目を覚ましたな、ヒーロー」
最後の大爆発から数時間後。
ババーンは瓦礫の中からなんとか救い出され、近くの病院に搬送されていた。
目を覚ましたその場所がベッドであることに気付いたのは、ゆっくりと身を起こした、その時であった。
ババーンに声をかけたのは清麿だった。その横には、金色の髪をした少年・・・ガッシュがいる。
「勝ったのか? 僕は・・・」
「ウヌ!すごかったのだ、ババーン!!」
ガッシュがベッドをよじ登り、ボロボロの状態になっているババーンの手を握る。
マスクの頭頂部は折れ、マントもびりびりに千切れてはいたが、その手は汗と涙でにじんでいた。
「ビクトリームを吹っ飛ばした最後の必殺技、ババーン・ダイナマイツ!!そしてまっすぐに立ち向かっていった勇気に私も感動したのだ!」
ガッシュは、まさに眼前で繰り広げられたヒーローの戦いを、素直に評価していた。
「これからもババーンのヒーローとしての戦いに期待しているのだ!!がんばって欲しいのだ!!」
「・・・ああ・・・がんばるよ・・・!!」
握手した手をぶんぶんと振るガッシュの顔を見ながら、ババーンは、最初にビクトリームに立ち向かった時の事を思い出し、優しい微笑みをガッシュに向けた。
(『子供を守ってやれ』・・・か。もっと、がんばらなきゃな、ヒーローとして・・・)